top of page

Create Your First Project

Start adding your projects to your portfolio. Click on "Manage Projects" to get started

心を揺らさない待合室

筑波メディカルセンター病院のICU(集中治療室)エリアに設けられた、患者家族用控室の改修プロジェクトです。
ICUという場所は、手術や容体の変化を待つ家族が、強い緊張と不安を抱えたまま過ごす時間が避けられない空間でもあります。本計画では、そうした心理的に張り詰めた状態の人びとを、空間としてどのように迎え入れることができるのかを、設計の中心的な問いとしました。

本プロジェクトは、筑波メディカルセンター病院と、筑波大学ADPチーム「パプリカ」による協働のもと進められ、チア・アートが全体のコーディネートおよび実施設計として参画しています。

約3年にわたる検討の過程では、病院スタッフと学生が、専門家/非専門家という立場を越えて対話を重ねてきました。その中で、次第に共有されていった二つの言葉があります。
それが、「印象に残りすぎないデザイン」と「気持ちの換気ができる空間」でした。

ICUエリアに足を踏み入れる家族は、多くの場合、これから起こる出来事を待つ立場に置かれています。
その緊張を、空間がこれ以上刺激しないこと。
同時に、言葉にならない気持ちが、ほんの少しだけ外へ流れていく余地を持つこと。
これらは設計理論から導かれた条件ではなく、日々その場に立ち会う病院スタッフと学生たちの実感から、自然に立ち上がってきた感覚でした。

私が担った役目は、そうした言葉や感覚を、「設計のふるまい」へと翻訳することでした。
色彩計画では、暖色系でありながら彩度を抑えた配色を選び、過度な印象や感情の方向づけを避けています。無機質さをベースとしつつ、木材を部分的に用いることで、硬さだけに寄らない温度をにじませました。また、強いコントラストを生みやすいモノトーンの配色は極力避け、空間が語りすぎないバランスを探っています。

形態においては、壁面に緩やかなカーブを与えることで、身体感覚として包まれるような空間性をつくりました。ただし、それが明確な「安心の演出」や「サービス」として受け取られないよう、特別さを前面に出さず、ただそこに在るというスタンスを保っています。

学生たちによって進められていた基本設計を引き継ぎながら、対話の中で育まれてきた空気感を壊さないよう、実施設計として寸法、素材、配置のひとつひとつを静かに整えていきました。

長い議論の中で見えてきた課題のひとつに、利用者の状況の違いがあります。
緊急手術を待つ家族と、面会のために訪れる家族が、同じ時間帯に同じ空間を共有しているという現実です。今回の改修では、既存の個室に加えてオープンな家族控室を新たに設け、緊張の度合いや過ごし方に応じて距離感を選べる、複数の居場所の重なりをつくりました。

ソファ、テーブル、カウンター、腰掛け。
どれも特別な形ではありませんが、ここでは「こう過ごすべきだ」と振る舞いを規定するための家具ではなく、「どう振る舞ってもいい」という選択肢として置かれています。

3年間の検討を経て、その最後の一年――実施設計から施工まで――に関わる機会を得られたことを、ひとつの信頼として受け取っています。
この空間が、誰かの記憶に強く残らなくてもいい。
ただ、張り詰めた時間の中で、緊張がわずかにほどけ、その場に身を置くことができていたなら。
それで十分だと、今は思っています。

bottom of page