top of page

Create Your First Project

Start adding your projects to your portfolio. Click on "Manage Projects" to get started

積み上がる一箱本棚

本を媒介に、時間が積み上がる場所として「一箱本棚」を設計しました。
街の廃木材や建設会社から寄付された材木を用いてつくられた、小さな本棚から始まるプロジェクトです。
一箱の大きさは、子どもでも抱えることができる程度。
それぞれが、ひとつの「持ち運べる居場所」として設えられています。

制作の最終工程となる組み立ては、子どもや高齢者など、ワークショップに参加した人たち自身の手で行われました。
誰かが用意した完成形を受け取るのではなく、関わった時間や身体の感覚が、そのまま箱に残ることを大切にしています。

一方で、このプロジェクトは「その場で材料を使って本棚をつくること」だけを前提にしていません。

自宅で使われなくなった小さな棚や箱、長く使われてきたが役目を終えつつある本棚、
あるいは形や素材の揃っていない、個人的な背景をもつ器。
そうしたものが、本とともに病院へ持ち込まれ、寄付や寄贈というかたちで、この場に加えられていくことも、ひとつの自然な流れとして想定されています。

完成した一箱本棚、あるいは持ち寄られた本棚は、病院の中に置かれ、少しずつ積み上げられていきます。
入院中、自分の本を入れて病床のそばで使う人もいれば、退院の際に、本とともにその箱を病院に残していく人もいます。

そうして一箱、また一箱と時間を重ねながら、本棚は静かに大きくなっていきます。
そこに集まっていくのは、素材や形の整った家具ではなく、この病院を訪れ、過ごし、去っていった人たちの痕跡としての本棚と本の集積です。

材料は何であってもかまいません。
統一されたデザインや完成形を目指すのではなく、「本を置く」「本を残す」という行為が重なっていくこと。
その積み重ねによって、結果として場が更新されていく構造そのものが、このプロジェクトの核にあります。

このプロジェクトは、水戸市の北水会病院で実施されました。
広い敷地に複数の病棟が点在するこの病院では、病棟同士、スタッフと患者、患者同士のあいだに、自然な交流のきっかけが生まれにくいという課題がありました。

そこで立ち上がったのが、本を媒介に人の移動と時間を編み直す企画「ほんたび」です。
一箱本棚は、その「ほんたび」を支える実践プロジェクトとして位置づけられました。

このプロジェクトのコンセプトは、行為を強く促したり、参加を呼びかけたりする仕組みをつくることではなく、人が本を持ち込み、置き、残していくという行為が、特別な意思表示を伴わなくても起こり得る状態を、空間と構造として用意することでした。

一箱本棚は、完成をゴールにしない建築でも、家具でもありません。
自然発生的に意味が重なり、関わった人の数だけかたちを変えながら、時間とともに育っていく構造体です。

この場所に、いつか病院という時間を通過してきた人びとが積み上げた、ひとつの図書館が立ち上がることを想像しながら、「使われ続けること」を前提に最小単位のかたちを設計しました。

bottom of page